【下川原焼土人形】素朴で優しい音色の津軽伝統工芸品

弘前市内の土産物店などで見かける、鳩の姿をした素朴な土笛。
津軽の伝統工芸品、「下川原焼(したかわらやき)」の代表的な作品です。
昔から、子どもの玩具として、縁起物として大切にされてきた下川原焼。
その技法を代々守ってきた、高谷下川原焼土人形製陶所にお邪魔して、窯元である高谷智二さんに、下川原焼の歴史や作品についてお話を伺ってきました。

下川原焼とは 津軽藩お抱え陶磁器職人が作った玩具たち

江戸時代後半、津軽藩の命により、はるばる九州は筑前へと渡り、陶磁器作りを習得した高谷金蔵。
戻って来た金蔵に陶磁器で日用品を作らせるため、津軽藩は下川原地域を与え、そこに窯を築いたことが、下川原焼の始まりとされています。
下に川原があるから「したかわら」という地名だったようで、周辺一帯で陶磁器を製作していました。
津軽藩お抱えですから、今で例えれば公務員といったところでしょうか。

金蔵をはじめとした職人たちは、下川原の地で日用品を作陶していました。
しかし、冬季には乾燥時間の問題などで作業ができない期間があり、その間に子どもの玩具として動物や人物などをかたどった土人形笛を作るようになりました。
現在では、土人形笛だけが受け継がれ、下川原焼土人形の名称で青森県の伝統工芸品として指定されています
多くの職人で作業していましたが、廃藩置県の際に土地を離れた職人も多く、現在まで下川原での土人形製作を続けているのは、高谷下川原焼土人形製陶所(以下、高谷製陶所)のみとなり、弘前市内全体でも2か所のみとなってしまいました。

下川原焼の原料となるのは、赤土と川砂を調合した粘土。
高谷家に代々伝わっている「型」に粘土を押し込めてまず形を作り、乾燥後に窯で素焼きします。
焼いたものを白く塗って、乾燥させてから色付けして完成となります。
焼き締めるので、最初の粘土の状態から3割ほど小さくなるため、型を作るときにはそこを考慮して大きめにしているのだそうです。

乾燥や焼成後に冷ますのには時間がかかります。
また、型も繰り返し使っていると割れてしまうので、量産するのは、なかなか難しいのだそうです。

現在は、よく作るものの型については、石膏型にして量産できるよう工夫されています。
全てが手仕事なので、全く同じ土人形はひとつもありません
そして、笛の音もどうしても少しずつ違ってしまいます。
そこがまた、下川原焼土人形笛らしさであり、味わい深いところでもあります。

高谷下川原焼土人形製陶所

高谷製陶所は、土淵川沿いの住宅街の中にあり、一見すると普通の民家のようで、車で向かうとうっかり素通りしてしまいそうです。
目印となる大きな栗の木が、弘前市の保存樹木に指定されていますので、その標識が目印になっています。
玄関に入ると、すぐ両側に大小様々な下川原焼の土人形が並び、その鮮やかさと多彩さには驚かされます。

「ここには、先代(兄)や先々代(父)の作品が多くあります。
同じ型でも色を変えて塗っているものもありますよ。」
高谷智二さんは、2016年に実兄から窯元を継ぎました。
幼少期から下川原焼に触れており、自分も作ることはできるだろうなと感じつつも、それまではサラリーマンとして勤務していました。

「兄から高谷製陶所を継ぐにあたって、自分は下川原焼の代表的な型である鳩と、毎年需要がある干支ものとお雛様しか作らないと言いました。
ものすごい種類の型があることを知っていましたから、手を広げてしまえば大変なことになると感じていました。」
下川原焼の型は、代々高谷家に残されてきました。
ざっと1,000は下らないその型は、年代が近いものは比較的整理されているものの、ほとんどが分類もされずに保管されていました。

「本当に、それだけのつもりで始めたのですが、お客さんからの注文を聞いたり、自分が気になって選んで焼いたりしているうちに、どんどん種類は増えてしまって。」
高谷さんはそう笑いながら、室内の作品たちを見せてくれました。

干支ものや雛人形はもちろんのこと、面笛(めんぶえ)と呼ばれる、動物や縁起物の顔の形をしたもの、生活感溢れる姿のものなど、大きさも形も色も様々なものが並びます。
下川原焼と言えば鳩が代表的で、控えめで落ち着いた色合いのイメージでした。
しかし、高谷製陶所に並ぶ土人形たちは、どれも色鮮やかで、とても生き生きとしています。

「赤や黄、それに紫と青や黒は使いますね。
資料が残っているものは、できるだけ同じ色を塗っていますが、必ずそうしなければいけないというものではありません。」
高谷さんに見せていただいた資料にも、鮮やかで賑やかな土人形たちが多数並んでいました。
古いものは、現在は色褪せた状態なので落ち着いて見えますが、元々は原色で華やかな人形だったことが感じられます。
高谷製陶所に並ぶ土人形の中で、まず目を引いたのは、どこか西洋的な人形でした。

「この左側のは、サンタクロースですよ。
まだサンタは赤い服というのが定番になる前に作られたものです。
実際にサンタクロースの絵を見たのではなく、恐らく伝え聞いたものを形にしたのでしょう。」
服が緑なので、ぱっとサンタクロースと気づけませんでしたが、小さいながら袋も持っていました。
「右は西洋風の女性ですが、こちらも服装などは聞いたことを元に想像を膨らませて作ったのだと思います。」

伝統的な作品だけでなく、流行物などについて人から聞いたことをベースに土人形に仕立てる、そんな作り方もあるのだそうです。
そこに作家の遊び心が感じられますし、子どもたちも実際に見ることができなかったものに土人形を通して触れることができて、きっと楽しかったことでしょう。

「これは天神さまなのですが、牛に乗っていますよね。
これは牛乗り天神と言って色々なところで土人形になっています。」
以前、天神さまについて研究している方が、牛乗り天神の土人形を求めて高谷製陶所を探し当てて来たことがあるのだそうです。
その時に、大変驚かれたのが牛乗りではなく象に乗る天神さまだったと高谷さんは話します。

「これですね、なぜか天神さまが象に乗っているという話を聞いたのでしょうね。
でも象の正しい姿は知らなかったから、やっぱりこれも人から伝え聞いたことを元にしている。
鼻もそれほど長くないし、耳も小さいですよね。」
象と言うよりはカバのような生き物に乗る天神さまは、ユーモラスでもあり、心和む愛らしさです。
史実に忠実なものだけでなく、こうした作品が多数あるのも、下川原焼の魅力と言えるでしょう。

高谷製陶所では、実際の製作作業を見ることはできませんが、作品を見せていただいたり、高谷さんにお話を伺ったり、在庫のあるものについては購入も可能です。
毎週日曜日の15:00~17:00の間に開放されており、予約は不要ですが所用で不在にすることもあるそうなので、訪問前に電話で確認しておくことをオススメします。

下川原焼のこれから

現在、七代目として定番から受注分まで日々製作されている高谷さん。
次代を継ぐ方は、現時点で不在だと話します。
「作り手が居なくなれば、確実に技術は失われてしまう。
まず私は、数多く残っている型を分類して整理して残しておきたいですね。
型の制作者がわかるものは、それも明記しておきたいです。
型が無いと作りたくても作れないですから。」
代々伝えられてきた型があってこその土人形。
創りたい、伝統を繋ぎたいと思い立ってくれる方が現れた時に、捜し物から始めなくても良いようにしておきたい、と高谷さんは話します。

下川原焼土人形は玩具ではありますが、姿形を作れば良いというものではありません。
モデルとなった人物や動物、あるいは妖怪など空想のものたち、お山参詣などの行事について、歴史的な背景なども知り、色や表情などに反映させています。

「下川原焼について調べれば調べるほど、どんどん深くなっていくんです。
歴史とか、地理とか、民俗学的なところも含まれていきますから。
もしかすると土人形を作るより、調べていくことの方が私は向いているのかもしれません。」
高谷さんはそう言って笑いますが、津軽についての様々な知識を持った上で絵付けされる土人形たちは、どれも躍動感があり、見ていると思わず頬が緩みます。

「毎年楽しみにされている方が居ますので、干支ものやお雛様は続けていきたいと思っています。
でもそれ以外にも、型を探して試して復刻させたいものもあります。
無理なく、どちらも作りながら、型を整理して残していきたいですね。」

〇施設名:高谷下川原焼土人形製陶所
〇住所:弘前市桔梗野1丁目20-8
〇電話:0172-32-6888
〇営業時間:毎週日曜日 15:00〜17:00
〇公式:Instagram https://www.instagram.com/7th_creater/
〇その他:作品を購入できる場所
 ・弘前市観光館
 ・藤田記念庭園匠館
 ・津軽藩ねぷた村
 ・高谷下川原焼土人形製陶所(営業時のみ)

こちらもオススメ!

【ブナコ】ブナを使ったモノづくり体験と汎用性の高い商品がオススメ!!
弘前が誇る地酒を紹介!酒造見学ができる施設や飲み比べ・立ち飲みができる酒屋さんも
【小林漆器】弘前市の伝統工芸・津軽塗でオリジナルアイテム作りの体験してみよう!!

弘前NAVIロゴ