津軽藩を護り続けた禅林街

弘前の観光名所のひとつ、禅林街(ぜんりんがい)
文字通り「禅宗の寺」が「林のように」並んでいる、全国でも珍しい場所です。
まっすぐな道路に寺が建ち並ぶ様子は美しく、津軽家の菩提寺でもある長勝寺の重厚さと相まって、城下町ならではの風情を感じさせます。
今回は、この禅林街をもっと楽しんでいただくための情報を盛り込んでご紹介していきます。



禅林街のなりたち



弘前はかつて津軽藩と呼ばれ、二代藩主津軽信枚(のぶひら)が、弘前城の南西の抑えとして領内の寺院を集めたことで生まれた場所が禅林街です。
弘前城から見て、風水で言うところの「裏鬼門」に位置する場所に寺が集まることで、お城を守ろうという考えからなされました。


その終点とも言うべき最奥地には、津軽家の菩提寺である長勝寺があります。
禅林街に並ぶ寺は全て曹洞宗のもので、現在の弘前市内だけでなく、遠く鰺ヶ沢などにあった寺も集めてきたとされています。
こうして、国内でも大変珍しい禅寺が並ぶ通りが生まれました。


弘前市内にお住まいの方で、先祖の菩提寺が禅林街にあるという方も少なくありません。
観光寺院というよりも、ごくごく当たり前に先祖を弔う場所として在り続けているのが禅林街の特徴でもあります。



観光地としての禅林街



禅林街へは、車でも入ることができます。
ですが、お天気が良ければ、気軽に撮影などできるよう歩いて散策するのがおすすめです。



禅林街の入口:黒門




禅林街の入口に当たるのが「黒門」です。
重厚な門をくぐると、目の前に気持ち良いほどまっすぐな道があり、正面に長勝寺を臨むことができます。


この門から長勝寺までの間に19の寺が並び、この通りを「長勝寺構え(上寺通り)」と称しています。
この黒門は、長勝寺の総門であると同時に弘前城の城郭門とも考えられていました。
風情ある門であり、禅林街の入口として歴史的好環境を作り出していると認められ、1978年には弘前市の指定有形文化財に指定されました。


この場所で記念撮影する観光客も多く、この門をくぐるところから、禅林街への小旅行が始まると言えます。
黒門の幅は一般的な2車線よりは狭いため、車の場合は対向車に注意して、ゆっくり通り抜けましょう。



もうひとつの禅林街へ:赤門




一般的に、禅林街と言えば長勝寺まで続く寺たち、というイメージなのですが、実はそれだけが禅林街ではありません。
黒門の手前、右手にある同じような佇まいの門「赤門」を抜けた先も禅林街なのです。


赤門から先には12の寺が集まっており、「耕春院構え(下寺通り)」と呼ばれています。
赤門に気づかない方も多いため、黒門のある上寺通りに比べて、ややひっそりとした印象を受けます。


折角ならば、こちらの下寺通りもしっかり歩いて、禅林街をコンプリートしてはいかがでしょう。
なお、赤門のすぐ横には角打ちができる加藤酒店があります。


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二重螺旋構造を持つ不思議な建物:栄螺堂




黒門を入ってすぐ左手にあるのが栄螺堂(さざえどう)です。
お堂の内部構造が巻き貝のサザエのように見えることからこの名がついています。


二重螺旋(らせん)と呼ばれる、その珍しい構造は、入口から歩み進めているうちに気づくと頂上に居て、そのまま方向転換することなく下って入口とは異なる出口にたどりつくというものです。
堂内には、観音菩薩や三十三観音など、多くの仏像が安置されており、堂内を巡ることによって、巡礼と同じご利益があるとされて信仰の対象となってきました。


こうした形態の宗教施設は大変珍しく、東北地方では福島県会津若松にある飯盛山さざえ堂と、この弘前の栄螺堂のみだとされています。
禅林街の栄螺堂は、構造が少し異なっており、下りが普通の階段で、出入口は同じになっています。


江戸時代後期の御堂建築の遺構として貴重であることから、1974年弘前市指定有形文化財に指定されています。
現在一般公開はされていませんが、管理している蘭庭院さまにお願いすることで、扉を開けていただけます(冬季を除く)。



津軽家の菩提寺 長勝寺




禅林街のランドマーク的存在である長勝寺
よく見られる禅林街の写真でも、正面に据えられることが多いお寺です。
創建は1528年、津軽氏の祖である大浦盛信が父の菩提を弔うために開山したのが始まりとされています。


長勝寺の名は、その父の法名に由来するものとされ、当初は現在の鰺ヶ沢町にありましたが、弘前城築城に際し、裏鬼門を守るために移されてきました。
津軽家ゆかりの寺として大変重要視され、裏鬼門鎮護の役割だけでなく、長勝寺を中心に構成された禅林街全体が弘前城の出城としての機能を持っていたのです。


まず出迎えてくれる三門は、1629年二代藩主津軽信枚によって建立されたものと伝わっています。
その高さは一般的なビルであれば4階分にもなり、圧倒的な存在感を放っています。


こちらの三門は、左右に仁王像が安置され「太平山」の山号額が掲げられています。
上層部分は一般公開されておらず、写経奉納など特別な場合にのみ上がることを許されています。
江戸時代初期の寺院楼門建築の遺構として大変貴重であるとして1936年に国の指定重要文化財に指定されました。


本堂は、曹洞宗の本堂建築としては全国に的見ても最古級のものとされており、こちらもその貴重さから、1993年に国の指定重要文化財に指定されています。
庫裏(くり)は、元々1502年に立てられた大浦場の台所を移築したものを建て直したもので、こちらも本堂と同じ年に国の指定重要文化財に指定されました。
その他にも、御影堂や厨子堂といった建築物も大変貴重なものです。


またかつては、津軽承とみ(とみの字は「示古」)公の遺体が自然ミイラ化した状態で発見され、防腐処理をして安置公開していたこともありました。
1995年に火葬されたため、現在は見ることができません。


長勝寺は、禅林街の要であるだけでなく、津軽八十八ヶ所霊場所第50番札所としての役割も持っています。
歴史的に貴重な建造物を多数抱え、津軽家の菩提寺として現在も弘前の町を護り続けているのが、禅林街であり長勝寺であると言えます。


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禅林街を構成する主な寺院



長勝寺以外にも、見どころや特徴のある寺がいくつもあります。
ここでは、黒門から入るエリア「上寺通り」と、赤門から入るエリア「下寺通り」そして、禅林街の一部ながら離れた場所にある「通り外」に分けて紹介していきます。



上寺通り



隣松寺




名君と呼ばれた津軽藩四代目藩主津軽信政の生母・久祥院の菩提寺として知られる寺です。
江戸時代中期に作られた御堂建築として貴重な存在であるとして、1955年に青森県重宝に指定されています。



陽光院




津軽八十八ヶ所霊場の第51番札所であり、また津軽三十三観音霊場の第2番札所:多賀神社の千手観音が移されたため、霊場巡りの方がよく訪れる寺です。



蘭庭院




先に述べた栄螺堂を管理されており、お願いして鍵を開けていただけます。
御朱印も、栄螺堂の文字が入ったバージョンがあります。



海藏寺




津軽で最初の曹洞宗寺とされています。



下寺通り



宗徳寺




津軽藩の礎である津軽為信の実父の菩提を弔うために堀越(かつての居城があった場所)に建立した長福山耕春院と、その本寺である石川の龍光山宗徳寺を移転合併させてできた、加賀と津軽の2つの歴史を併せ持つ寺院です。
津軽八十八ヶ所霊場の第53番札所でもあります。
また、毎週火曜・金曜の早朝、坐禅会を開催されており、自分に向き合う時間を体験できる場となっています。



正伝寺




かつて住職がねぷた絵師でもあったという津軽らしいエピソードがあり、ライブや工芸展の会場としての利用もされる寺院です。



盛雲院




禅林街を造るために移動するよう求められたが、なかなか移動したがらなかったために最も遅く移転し、場所も良くなかったため「谷の寺」と称された寺院。
津軽八十八ヶ所霊場の第54番札所。
坐禅堂を有しており、弘前観光コンベンション協会による坐禅体験を受け入れています



永泉寺




境内に水琴窟「永泉の雫」が置かれています。
常滑焼のカメに永泉寺の井戸から湧き出た雫が当たり、微かに優しい音色が響きます。



常源寺




津軽八十八ヶ所霊場第55番札所。



月峰院




津軽八十八ヶ所霊場第56番札所。



通り外



普門院




長勝寺に向かって左折し、更にその先で左折した通りにある寺院。
津軽三十三観音の第33番札所(結願所)であり、山観(やまかん)の名で親しまれています。



まとめ



弘前城の裏鬼門を守る禅林街について紹介してきました。
こちらはそれぞれのお寺に現在も檀家さんがいらっしゃるため、お盆やお彼岸の時期になると名物の「禅林街渋滞」が発生します。
一斉にお墓参りに出かけるので、禅林街が文字通り車で埋まってしまいます。
それでも散策や参拝は可能ですが、混雑して落ち着かず、また写真を撮ろうにも車だらけになってしまいます。
可能であればこうした時期を避けることをおすすめします。



○禅林街
○場所:弘前市西茂森1丁目・2丁目
○アクセス
 ・弘南バス 相馬・西目屋線「茂森町長勝寺入口」下車徒歩5分ほどで黒門・赤門へ
 ・普門院のみ 同じ路線バスで山観通り下車 徒歩5分


○施設名:太平山長勝寺
○場所:弘前市西茂森2丁目23-8
○電話:0172-32-0813
○営業時間
 ・土足で見学できるエリア:9:00〜16:00(予約不要))
 ・内部は要予約(弘前観光コンベンション協会へ)
○公式:HP https://xn--phry5son2c.com/


○施設名:耕春山宗徳寺
○場所:弘前市西茂森1丁目12-3
○電話:0172-32-4437
○坐禅体験:毎週火曜・金曜 6:30〜7:30(初心者向け・要予約)
○定休日
 ・坐禅体験のお休み:お盆(8/7,8/13-16)、春秋の彼岸中日、冬季(12/20〜1/10)、積雪が朝5cm程度以上ある場合
○公式
 ・HP https://www.sotokuji.net/
 ・Instagram https://www.instagram.com/sotokuji


○施設名:薬王山正伝寺
○場所:弘前市西茂森1丁目9-1
○電話:0172-32-1784
○公式
 ・HP https://shodenji.jp/
 ・Instagram https://www.instagram.com/shodenji
 ・X(広報担当:薬師るり) https://twitter.com/ura_shodenji
 ・Facebook https://www.facebook.com/yakuouzanshodenji


○施設名:大浦山海藏寺
○場所:弘前市西茂森2丁目4-3
○電話:0172-32-4674
○公式:HP https://kaizouji.sakura.ne.jp/index.html


○施設名:観音山普門院
○場所:弘前市西茂森217-4
○電話:0172-32-5105
○公式:HP https://fumonin.com/

 
○施設名:弘前観光コンベンション協会
 長勝寺の内部見学、盛雲院の坐禅体験予約 などを担当
○場所:弘前市下白銀町2-1 弘前市立観光館内
○電話:0172-35-3131
○公式:HP https://www.hirosaki-kanko.or.jp/



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